【レビュー】Observation: ユニークなコンセプトと見事なストーリー展開でプレイヤーを未知の恐怖に引きずり込む良作SFスリラー。彼女をここへ――

ゲームレビュー

この記事にはストーリーに関するネタバレが若干含まれています。

『Observation』は今までにない新しい”視点”をもったゲームだ。プレイヤーは宇宙ステーション「オブザーベーション」に搭載されたAI「SAM」としてエマ・フィッシャー博士と協力し、ステーション中に配置された多数のCCTVカメラや様々なシステムを通して、突然起きた不可解な事故の原因を探っていくことになる。

Observation – Launch Trailer
公式ローンチトレイラー

開発者曰く、本作はゲームになった『2001年宇宙の旅』だという。しかし、実際にプレイしてみると受ける印象は違う。原因不明の事故、連絡の取れない隊員たち、そして未知の存在……。常に恐怖を煽られる演出や明かりの少なさからくる閉塞感など、同じ映画であれば『エイリアン』シリーズや『イベント・ホライゾン』、あとは『クローバーフィールド・パラドックス』といった作品の雰囲気に近いと感じた。

今回プレイしてみてクリアまでにかかった時間はおよそ8時間程度。探索を手早く行えればストーリーは6時間程度でクリア可能なボリュームだろう。ゲームとしては短い部類だが、ストーリードリブン型のアドベンチャーならばこのくらいの長さがちょうどいいとも言える。

ストーリーは序盤から緊張感に溢れており、よく練られた脚本は最後までプレイヤーの心をつかんで離さない。問題を解決するたびに新たな問題が発生し、刻一刻と予期しない方向へと進んでいく物語の展開は、まるで一本の映画を見終えたかのような満足感を与えてくれた。演出もメリハリが効いており、特にプロローグの最終局面、現在オブザーベーションの置かれている状況が判明するシーンは見せ方やサウンドが巧みで、多くのプレイヤーに強い衝撃を与えたことだろう。スクリーンショットを紹介したいのもやまやまだが、このシーンは是非とも自身で確かめてもらいたい。

物語の中心人物、エマ・フィッシャー博士。彼女が目にしたものとは――
※最初のうちは21:9かつ英語でプレイしていた

唯一残念だったのが、物語のある点を境に一気に情報を出しすぎていた点だ。謎が増えすぎた弊害とも言える。ストーリーは中盤以降一気に複雑さを増し、同時に新たな人物や設定も畳み掛けるように登場する。目まぐるしく変化する状況の中で、今まで提示されてきた設定を頭の中で整理するのはいささか骨が折れた。本作を隅々まで理解し考察するには柔軟な頭が必要となるだろう。

ここまでストーリーに関して評してきたが、本作の魅力はストーリーだけにとどまらない。インディースタジオとは思えないリッチなグラフィックスもその魅力の一つだ。ステーション内部の設備や各クルーの部屋にある私物など、細部に至るまで丁寧に作り込まれている。ライティングやエフェクトも上手く使われており、カメラを通して見るオブザーベーションはまるで現実であるかのようだった。

内部のデザインや壁面に貼られたドキュメントなど、細かい部分まで作り込まれている
メモやドキュメントは近づけばある程度読むことも可能だ

インターフェースのデザインも優秀で、シンプルな操作感を実現しつつ、レトロなSF映画の雰囲気を演出している。このインターフェースのデザインと無機質な音声で語るSAMだけを見れば、確かに『2001年宇宙の旅』を彷彿させる。

インターフェースの雰囲気は昔のSF映画そのもの

ここまでストーリーやビジュアルについて評価してきたが、次はゲームプレイについて語っていこう。始めに言ってしまうと、本作のゲームプレイ部分は雰囲気を重視するあまりか少々難有りといった印象だった。

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本作ではストーリーを進める上で常にパズルが絡んでくる。個々のパズルは至って簡単で、直感的な操作でほぼクリアすることができる。どのパズルもステーションのシステム操作をうまいことゲームに落とし込んでおり、このパズル自体が作品の雰囲気を演出するのに一役買っている。しかし一方で、この単調なパズルの繰り返しがゲームのテンポを著しく損なってしまっている場面も見受けられた。具体的な例を挙げると、物語の山場、残された時間も少なく緊張感走るシーンのはずなのに、ゆっくりとした動作で3回も全く同じ操作を要求される事があり、せっかくの場面がなんだか間の抜けた印象になってしまうことがあった。

本作のパズルの一例。詳しい説明がなくても操作しているうちに解法がわかる

また、ゲーム中に表示される目標がどこにあるのか、またはそこで何をすればいいのかがわかりにくいのもプレイしていて気になった。特に移動式のカメラ(SPHERE)を操作しているときは視界が悪いこと、無重力状態で上下左右の方向感覚を失いやすいこと、そして遅延や慣性のある操作性で目標到達・達成にそこそこ時間を取られることも多かった。この点に関しても操作中の没入感や臨場感といった雰囲気はよくできているため、そちらを優先した結果ということだろうか。

宇宙空間にでて作業する場面も

あとは、ゲームプレイに直接関わることではないが、ローカライズに少々問題があったのが残念な点だ。セリフやドキュメントの翻訳自体に問題はないものの、特に中盤以降は頻繁にセリフの翻訳抜けがあった。ほとんどはワンフレーズのみであったりと会話内容を把握するのにさして問題はなかったが、一度だけセリフまるまる1つ分の翻訳抜けがあった。日本語に対応している事自体はありがたいものの、今後の改善に期待したいところである。

総評

8.0/10

  • ディティールにこだわったステーション内部の描写
  • シンプルで洗練されたデザインのインターフェース
  • プレイヤーを一気に惹き込む怒涛のプロローグ
  • 次々と謎が浮上する予測不能で魅力的なストーリー
  • 不明瞭な目標・指示
  • ストーリーの勢いを殺す間延びしたパズル要素
  • 移動パートの操作性の悪さ
  • 多数の翻訳抜け

本作はゲームプレイのテンポに少々難はあるが、そんな欠点を補って余りある魅力的なストーリーとビジュアルを兼ね備えた上質なSFスリラーである。常にあたりを包む不穏な雰囲気や2転3転する展開など、プレイヤーはクリアまで画面に釘付けにされるだろう。本作のビジュアルやAIとしてプレイするというユニークなコンセプトに惹かれたゲーマーには是非ともプレイしてもらいたい。

『Observation』はPCとPS4で配信中。
PC版はEpic Gamesストアから購入でき、6月中旬までは1000円引きで購入可能だ。

『Observation』公式サイト

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